ブックライター(ゴーストライター)に依頼する方法は?実際にあった発注の話
書籍制作でスムーズな進行と質の良い原稿を両立するためには、実力のあるブックライター(ゴーストライター)の存在が欠かせません。出版点数が増加傾向にあるなか、表舞台に立つことの少ないブックライターは供給不足といえる現状があります。では、どうすれば「いいライター」に出会えるのでしょうか。本稿では、ブックライターの探し方や依頼の方法などを、事例を交えて紹介します。本づくりに挑む著者や編集者の方は参考にしてください。
ブックライター(ゴーストライター)が必要になるケース
本稿はブックライターが必要とされる場面として、主に次の3点を想定しています。あなたはどのケースに当てはまるでしょうか。
出版社が本をつくるとき
ブックライターに声を掛けるクライアントの多くは出版社(の編集者)さまです。
企画が通った後、ライターをキャスティングするのも編集者の重要な役割のひとつでしょう。半年〜1年におよぶ出版プロジェクトを安心して進めていくためには、信頼できるクリエイターの存在が欠かせません。なかでも書籍の制作において、目次の作成〜校了まで、密に連携しながら付き合っていくライターは、商品の質をも左右します。
しかし1日に平均300タイトルもの出版物が刊行されるなか、一定水準以上の力を持つブックライターを安定的に確保するのは簡単ではありません。
特に編集者として経験の少ないジャンルに挑戦する際や、専門性の高い内容になるほど、実力のあるライターの手を借りたいと思うのではないでしょうか。
出版プロデューサーが本をプロデュースするとき
出版プロデューサーさまが著者さまから依頼を受けて本をつくるとき、ライターの手配まで一貫して行うことが少なくありません。
このような場面では、どのようなライターが求められるでしょうか。まず、プロデュースする著者の多くは、実業家か特定ジャンルに強みを持つ専門家です。原稿をより深い内容にし、取材の進行をスムーズにするために、ライターにも専門性が求められます。
同時に、プロデューサーにとって著者はクライアントですから、社会人として失礼のないよう振る舞い(当たり前といえば当たり前ですが)、感じ良く取材できるライターだとポイントが高いでしょう。
著者が本を執筆するとき
まれですが著者さまが直接、ブックライターを探して依頼することもあります。
例えば、出版社を介することなく個人で出版する場合や、息の合うライターを見つけたい場合などです。
近年、Amazon KDPのように無料で電子書籍を出版できたり、安価な自費出版サービスが提供されたりと、個人が出版するハードルは下がっています。
起業家や専門家がマーケティングツールの一貫として個人出版する際、ブックライターが必要になることがあります。また、書籍だけではなくSNSやブログなど、著者が発信するあらゆるコンテンツの構成・執筆を代行する専属ライターとしてブックライターを起用するケースも増えています。
ブックライターを探す方法
単行本一冊の構成をまるまる任せることができるようなライターを見つけるには、どうすればよいのでしょうか。ここでは信頼できるブックライターを探す方法を5つ紹介します。
知り合いに紹介してもらう
ブックライターを探す方法の王道は、知り合いの編集者や著者に紹介してもらうことです。
書籍の制作は長期にわたり、かつ多額の費用がかかるのでしくじるわけにはいきません。信頼できる知り合いの紹介で、実績のあるライターを見つけるルートが最も安心できるでしょう。
ライター界隈には「ブックライターになりたいけど、どうしたらいいか分からない」という人がいます。ブックライティングの取引は紹介で始まることが多いからです。
その背景として、次のようなものがあります。
・ブックライティングはあまり大っぴらになる仕事ではない
・出版業界の体質として、人とのつながりを大事にする
・ライターを探している時間がもったいない
・実績のあるライターが少ない
名前が表に出にくいことは、著者として本を出すノンフィクションライターやエッセイストなどとブックライターが大きく異なる点です。ただし後述するように、積極的に営業活動をしているライターもいます。
以降は編集者や著者に知り合いがいなかったり、いても頼みにくかったりする人がブックライターを探す方法について述べます。
ホームページを検索する
ライターを探す人がまず思いつくのは、ネット検索ではないでしょうか。当ホームページにご訪問いただいたきっかけも、「ブックライター」などの語句で検索されたことかもしれません。
「ブックライター 探す」
「ゴーストライター 募集」
などと検索すると、ライターさまや編集プロダクション(書籍やメディアなどの制作会社のこと)のホームページが複数表示されます。たいていはメールなどの依頼窓口を設けているので、気になるところがあれば問い合わせてみるとよいでしょう。
「執筆代行」などの検索語句は、コピーライター寄りなので、少し求めている検索結果と違うかもしれません。
わざわざブックライターとしてホームページを作って営業しているライターは、ブックライティングに特別に力を注いでいることが分かります。多くのライターは、いろいろな仕事がある中で、たまにくる書籍の依頼を引き受けているからです。
注意点として、ホームページに掲載されている情報は古いものである可能性があります。最近の更新状況を見てみれば実績も確認でき、商談がスムーズになるでしょう。
クラウドソーシングを活用する
たまにクラウドソーシングでブックライターの募集を見かけます。クラウドワークスやランサーズ、ココナラなどです。
クラウドソーシングでブックライターを探す方法は大きく分けて2つあります。不特定多数の登録ライターに対して募集する方法と、ライターのプロフィールページから直接依頼する方法です。タイミングが合えば、実績のあるブックライターに出会えます。
メリットはお互いに契約先を探している状態なので商談がスムーズに進みやすいことです。デメリットとしては登録の手間がかかることが挙げられます。
本の奥付を見る
奥付とは書籍の(広告などを除く)一番最後に掲載されるページです。正式なタイトルや発行日、著者、出版社などが書かれています。その中から「編集協力」や「執筆協力」、「構成」などと記載されている人がいるかどうか見てみてください。その人はブックライターかもしれません。このようなクレジットは目次の前や後のページに記載されていることもあります。
その名前をインターネットで検索し、ホームページやSNSなどがヒットしたら、問い合わせてみるといいでしょう。
この方法は直接ライターと連絡できるわけではなく、確実性もあまり高くありません。あなたが制作しようと思っている本と似たテーマやテイストの本(類書)を探しているときに、ついでに見てみるといった程度の使い方をおすすめします。
SNSやブログなどで見つける
利用しているSNSやブログサービスがあれば、#ブックライター と検索してみてください。依頼を待ち望んでいるライターが見つかるかもしれません。SNSはホームページやクラウドソーシングよりもフランクなコミュニケーションを取れることがメリットです。投稿をさかのぼって見れば、仕事の取り組み方や実績、得意ジャンルなども分かるでしょう。
良いブックライターを見つけるコツ
知り合いの編集者や著者に紹介してもらえるのであれば、そのブックライターに依頼するとよいでしょう。ではホームページやSNSなどで探す場合は、どのような点に注意すればいいのでしょうか。
ブックライターとしての実績がある
最も分かりやすいのは実績です。単にライターとしての経歴よりも、ブックライターとして対応した書籍のタイトルが分かるとベストです。ただし著者による著作物という手前、具体的な書名までは公開していないケースが多いでしょう。そういう場合でも、問い合わせれば教えてくれるライターがほとんどです。
制作しようとしている書籍と同じテーマやジャンルの実績がライターにあれば心強いでしょう。ない場合は、対応可能かどうか聞いてみてください。
安心してブックライティングを任せられる実績の目安は、ジャンルにかかわらず何タイトルくらいでしょうか。
すでに目次構成を作成済の場合、またはこれから編集者が作る場合は、5タイトル前後の実績があれば、問題なく仕事を進められるだけの経験を持っているはずです。
著者が直接依頼する場合や、目次構成からライター主導で任せきりたいなら10タイトル以上の実績があるブックライターがおすすめです。
仕事を投げ出さない
依頼された仕事を投げ出さずに完遂する。当たり前のことです。しかし残念ながら、書籍制作の現場では、執筆を終える前に離脱してしまうライターが少なくありません。
ブックライターに限らず、外注における最大のリスクとは、業務を委託したフリーランサーから納期を過ぎても納品されず、一切の連絡がつかなくなることだと考えるべきでしょう。「(ライターが)飛ぶ」「バックレる」などと表現されます。
特にブックライティングは一冊の書籍を過不足なく順序よく構成する視野の広さや10時間前後の取材をまとめる情報処理能力、業務量の多さからくるスケジュール調整力などが必要です。数百字〜数ページの短い原稿を書くこととは求められているスキルが異なります。そのため普段はWEBや雑誌を中心に活動しているライターが単価の大きさにつられて安易に受けてしまい、いざ執筆する段になって「書けない」と挫折してしまうことがあるのです。
弊社に「ライターさんが音信不通になってしまったので、執筆を引き受けてもらえませんか?」という相談をいただいたのは一度や二度ではありません。
仕事を投げ出すのは明らかな契約違反であり、普通は依頼する側に落ち度はありません。しかし実際問題、逃げ出したライターを捕まえて無理やり書かせることができるか、といったら難しいでしょう。
依頼を検討しているライターが仕事を投げ出さないかどうかを見極めるのは簡単ではありませんが、実績は一つの目安になります。
もう一つのポイントは、ブックライティングへ取り組む姿勢です。
面談したり、ホームページやSNSのコメントを見たりして、仕事にやりがいを感じ、楽しんでいるかどうかを確認できるといいですね。
ライターの専門性とテーマがマッチしていることも、執筆する際のモチベーションやスピードに影響します。文章のクオリティも上がるでしょう。例えば美容ジャンルの書籍であれば、美容ライターに依頼する、という具合です。
話を聞く姿勢
ブックライティングでは、平均的に10時間前後のインタビュー取材を行います。ブックライターには、書籍のテーマに沿ってじっくり話を聞く傾聴力が求められます。
ライターと面談する際、会話の姿勢に注意してみましょう。あなたの要望や企画について、適度に質問をはさみながらしっかりと耳を傾けているでしょうか。数カ月、ひょっとしたら年単位の付き合いになるかもしれないブックライターを決めるには、第一印象もポイントの一つです。
ブックライターに依頼する流れ
信頼できるブックライターが見つかった場合、依頼の流れはおおむね次のようになります。出版社などに勤務している人は、会社のルールや上司の指示に従ってください。
条件を伝える
テーマや著者、スケジュール、報酬など、現時点で決まっている条件を伝え、対応可能かどうかを打診します。条件についての詳細は後段で説明します。
出版社による商業出版であれば、すでに企画を通過していると思います。可能であれば企画書に報酬や執筆納期などを追記して送ると、ライターは依頼内容が把握でき、受注できるかどうかの判断がしやすくなります。
企画の詳細が決まっていない場合や、著者が直接ブックライターを探すケースでは、以下の3点についてざっくりした内容を伝えるだけでも構いません。
・企画概要
・スケジュール感
・費用感
例えば、次のように伝えます。
「既婚の女性に向けた自己啓発本を企画しております。スケジュールは4月に取材を開始し、6月末までに初稿、9月発行の予定です。報酬は50万円でいかがでしょうか」
もちろん箇条書きでも構いません。
他にライター側で知りたい情報があれば、質問してくるはずです。
ブックライティングはライターにとっても、長期にわたってスケジュールを割かなければならない大きな仕事です。受注に慎重になる人も少なくありません。上記のような情報を伝えておくことで、コミュニケーションを取りやすくなるでしょう。
ライターと会う(面談する)
ブックライターを紹介してもらったり、ネットなどで探し当てて打診をしたりした後は、面談を行って詳細の説明と受注の意向の確認をしましょう。実際に会えればお互いにより安心ですが、拠点が遠くにある場合や感染症対策を重視する場合は、Zoomなどのオンライン会議がいいかもしれません。
前述の「話を聞く姿勢」の見極めや、細かい要望のすり合わせは、メールやSNSのメッセージなどよりも、会話のキャッチボールをしながら行ったほうが分かりやすいでしょう。
「会ったら発注しなければならなくなる」と気負う人もいるかもしれませんが、「数名のライターと面談しており、まだ正式に発注するかどうか分からない」と伝えておけば、ライターも過度な期待をせずに済みます。
スケジュールや業務内容などに問題ないようであれば、正式に依頼する旨を伝え(後日メールなどでも構いません)、契約書の作成に進みます。
契約書を交わす
ブックライターとの契約関係は業務委託になります。「業務委託契約書」を交わすのが一般的です。
出版業界では、著者と出版契約を交わすものの、ブックライターとは契約書を交わさない、という慣習があります。それにはさまざまな事情がありますが、後々トラブルが起こるリスクを考えると、契約書は必要です。また、資本金1,000万円以上の会社が発注する場合は、契約書または注文書などの書面の発行が、記載すべき項目とともに下請法に定められています。これらの書面がないと下請法違反になってしまいます。
出版社と著者との出版契約は発行日の直前に交わすケースが多いようです。ブックライティングも印税契約の場合は同様です。初版部数が決まらないと契約書に記載する報酬が確定しないからです。しかし可能な限り、依頼時に業務委託契約書を交わすべきでしょう。
著者が直接依頼するケースのように発注に慣れていない場合は、ブックライターのほうで契約書のドラフトを作れないか聞いてみてください。
契約書の締結方法は、紙と電子契約の2種類があります。お互いに都合がいいほうで作成してください。
実際にあった商談のパターン
実例として、弊社で今までにあったブックライティングのご依頼をパターン別に紹介します。
紹介
やはりご依頼のパターンで最も多いのが紹介です。編集者さまや出版プロデューサーさまの他、著者さまからご紹介いただくこともあります。
依頼元の編集者が立ち会い、事前の面談などは行わずに制作の打ち合わせから参加することもあります。
クラウドソーシング
弊社が法人化する前は個人でクラウドソーシングに登録していました。編集プロダクションや出版社からお声が掛かることもありましたが、出版プロデュース会社さまの募集案件に応募し、通過したこともあります。
一度だけ、著者さまから直接ご発注をいただいたこともありました。遠隔地でしたが、当時はオンライン会議があまり普及していなかったこともあり、メッセージのやり取りだけで契約へ。月一、二度は弊社の拠点がある東京にいらっしゃるとのことなので、そのときにインタビュー取材を行いました。ウィズコロナの現在なら、後半の取材はオンラインで行っていたかもしれません。
SNS
弊社で「起業女子のための電子書籍出版サポート」という電子書籍の制作サービスを行っています。主にInstagramで縁のあった方からご依頼いただいています。
Twitterやブログなどは運用していないため、弊社では受注の経験がありませんが、他のライターさまの話を聞くと、Twitterでブックライターの募集・打診が行われることもたまにあるようです。
ホームページ
商業出版ではありませんが、当ホームページからお問い合わせいただき、数十件の深いお付き合いになった出版プロデューサーさまもいます。
ブックライターに依頼する際の条件
前段の「ブックライターに依頼する流れ」の中で、ライターに案件の打診をする際、最初に条件を伝えることを述べました。具体的には以下の点です。
企画概要
制作する書籍のテーマや類書などを簡単に伝えます。事前に伝える理由は、ライターにとっては自分の専門性や関心とどれくらい合致するかが、依頼を引き受けるかどうか判断する要素になるからです。
スケジュール
出版予定日、初稿納品予定日、取材のおおまかな日程などです。ブックライティングは大きな仕事なので、ライターによっては 他のスケジュールとの調整が必要になります。一般的に実用書やビジネス書などでは取材に1〜3カ月、執筆に1〜2カ月、原稿の修正やデザインなどに1〜2カ月程度を要します。ブックライターが最も忙しいのは 執筆の約1カ月間ですから、この辺りが他の案件と重なっていると依頼するのは厳しいかもしれません。
取材方式・場所
取材は対面かオンラインか。対面であれば 場所を伝えます。ライターによっては遠距離となり出向くことができないかもしれません。「取材は○○駅に近い著者の事務所」という具合に伝えます。
報酬
税抜き(または税込)の報酬を伝えます。
原稿料(買い切り)の場合は○○万円(税抜き)、印税の場合は印税率と予定している初版部数・価格の情報が報酬の計算に必要です。「原稿料と初版印税の合計が50万円になるように調整します」のように合計金額を先に決めて原稿料と印税の割り振りは初版部数が決定してから、というケースも少なくありません。
取材費用についても、支給する範囲を伝えておきましょう。交通費は依頼元が負担するのが一般的です。
テープ起こしを依頼元で用意する場合は、その旨も伝えると、ライターが喜びます。
その他、特に伝えておきたいこと
文章のテイストや進め方など、特別な要望があれば伝えておきます。
ブックライター(ゴーストライター)の依頼はきっちり仕事をする「プロ」にしよう
以上でお伝えしたように、書籍の制作におけるブックライターとの付き合いは短くても数カ月、長ければ年単位の長期にわたります。依頼する相手は仕事をきっちりスケジュール通りに運べるプロでなければなりません。信頼できる人柄に加え、5〜10冊以上の実績があるとより安心です。
本稿では条件や依頼の進め方など細かいことも書きましたが、依頼する時点ではあまり具体的に決まっていないことも多くあるでしょう。
ホームページやSNSなどで気になるライターがいたら、まずは相談してみるのもいいと思います。